日本の終わりが近づいているのだろうか?
日本のインフラ老朽化と現状
日本では、高度経済成長期に整備されたインフラが老朽化しつつある。特に水道管の破裂や橋梁の劣化、道路の陥没などは近年増加傾向にある。総務省消防庁の報告によれば、水道管の破裂による道路冠水や断水は年間数千件規模で発生しており、老朽化が原因とされる事例が多い。これは、水道管の耐用年数(通常40〜50年)を超えた施設が全国的に増えているためだ。
特に、地方自治体が管理するインフラでは、「財政難(地方自治体の財政負担が重く、インフラ更新に十分な資金を確保できない)」、「人手不足(技術者や専門家の不足により、老朽化診断や適切なメンテナンスが滞る)」、そして「維持管理の先送り(予算の都合上、応急処置で対応し、大規模な更新は後回しにされがち)」などの問題が背景として存在する。
水道管破裂が示す日本の構造的問題
今回の所沢市の水道管破裂のような事故は、単なる局所的なトラブルではなく、全国的なインフラ管理の問題を象徴している。全国の水道管の更新率は年0.7%程度にとどまり、単純計算では100年以上かけなければすべての水道管を更新できない状況だ。この遅れが原因で、各地で突発的な水道管破裂が頻発している。
その主な要因としては、施設の耐用年数を超えても更新が進まないことが挙げられる。なぜ更新しないのだろうか。実際、水道事業は多くの自治体で赤字運営となっており、維持管理が後回しにされているというのが現状である。橋本龍太郎内閣における財政構造改革、そして小泉純一郎内閣に於ける過剰なまでの公共事業費の削減によって、国は補助金を出さないのが常識となってしまった。特に人口減少が進む地域では更新費用の捻出が困難になったというのが実情だ。現状、地方のさらに地方では近世時代のような暮らしを強いている。
政府の責任と倫理的課題
政府はインフラ維持の重要性を認識しつつも、大規模な財政投資を避ける傾向がある。そしてこれは現在も変わっていない。特に少子高齢化による税収減が見込まれる中で、「将来の問題」として先送りされることが多い。この対応には、国民に対する責任を果たさない倫理的問題が存在する。
世代間責任の放棄
インフラは一度整備すれば長期間にわたって利用されるため、その維持管理には「世代を超えた責任」が伴う。しかし、現状では「現在の世代が問題を先送り」にし、「次世代」に老朽化したインフラの修復費用を押し付けている。現世代が適切な投資を行わずに、未来の世代にそのコストとリスクを負担させることは、道義上、断じて許してはならないだろう。防げる事故であるにも関わらず、防がないことは国家的殺人に等しい。
公共の福祉の軽視
水道、電気、道路といったインフラは公共財である。これらは、国民の生命・財産に直結する。政府には最低限の生活基盤を確保する義務があるにもかかわらず、インフラ投資が軽視され、目先の政策に予算が割かれている。先端技術産業への投資は確かに重要であるが、それを可能にするのは国民の安全が維持され、基本的な生活ができるからこそである。政府は公共の福祉を軽視することによって、人材を死なせ、負傷させ、逼迫させているのである。「経済成長優先」「目先の財政健全化」を理由に、国民の生活基盤を軽視することは、社会契約の放棄につながる。政府は国民に最低限の契約を履行していないという実態があるのだ。
適切なリスク管理の欠如
水道管破裂のような事故は、予測可能であり防げるはずの問題だ。それにもかかわらず、計画的な更新が行われず、緊急対応に追われる状況が続いている。これは、リスクマネジメントの観点からも重大な欠陥といえる。リスク管理上、「予防よりも対処」を繰り返すことは、結果的にコストを増大させる。それは、税金の無駄なのだ。しかし、政府の誰も、長期的な視点に立った政策立案を行っていない。
解決策の提案
政府および自治体は、どのような対策をとるべきだろうか?
水道事業の広域化
水道事業を各自治体ごとに管理するのではなく、都道府県単位で統合し、財政と管理体制の効率化を図るのはどうだろうか。財政・人材・設備を一元化し、運営効率を向上させることで無駄を省くというメリットがある。
これによる「財政の安定化」によって、小規模自治体では負担が大きい水道事業を広域化することができる。加えて、「維持管理の効率化」を図り、各自治体ごとのバラバラな維持管理計画を統合し、合理的な更新を実施することができる。しかし、インフラ整備においては各自治体でニーズも異なる。そのため、被災地支援のようなニーズ調査は欠かせないだろう。
無論だが、デメリットも存在する。そもそもが中央集権的な事業広域化になるため「地方自治体の反発」が必至である。とりわけ、財源や人事権の移譲に対する自治体の抵抗は大きいだろう。また、この実現には水道法や地方自治法の改正が求められる。無論、場合によっては「住民サービスの低下」も発生するだろう。水道事業の統合によって、遠方の地域の対応が遅れる可能性がある。
また、こうした広域化では、政府主導での進行が不可欠となるだろう。既存の都道府県水道事業との統合を進めながら、法整備を行うべきである。
インフラ更新計画の明確化
現状、日本におけるインフラ整備は優先順位が明確になっていないように思う。八潮陥没事故や千葉、愛知で発生している水道管の破裂、道路破損などは対応が後手に回っていることからも、インフラ更新に関する情報が不足しているという懸念がある。そのため、国と地方自治体が長期的なインフラ再生計画を策定する必要があるだろう。
水道管の年齢、損傷リスクを全国的にデータベース化し、更新優先度を決定する。そして、国が長期的な更新計画を策定し、計画的な更新投資を行うのだ。これによって計画的な更新が可能となる。現状は、予算不足で場当たり的な修繕が多いため、長期的な視点で対応できる。また、こうしたインフラの更新計画は「災害対応力の強化」にもつながる。地震や水害に強い水道インフラの構築が可能になるだろう。
しかし、課題として地方自治体のデータが未整備であることが挙げられる。多くの自治体で水は、道管の正確な状況が把握できていない。また、「財政負担」も大きい。更新計画を策定しても、実行には巨額の投資が必要である。現状、政府はインフラの更新投資を全くと言っていいほど行っていない。
しかし、これは予算さえ確保できればすぐにでも実現出来ることである。長期的リスクを回避するためにも、政府はインフラ更新と投資計画を推進するべきだろう。
デジタル最先端技術の活用と新規投資
岸田前首相は、AIなどの最先端技術に対する新規投資を促進する旨を発言していたことがある。これは先の更新投資にも関連するがインフラ整備のためにはモニタリングシステムの整備も重要である。特に監視センサーやAIを活用して、老朽化した水道管をリアルタイムで監視し、事前の修繕を可能にするだろう。そのためにも、IoTセンサーを導入し、水道管の水圧・流量・温度などをリアルタイム監視するシステムの構築や、AIを活用した劣化予測システムを導入することが望ましい。
これらが実現すれば、「予防保全」が実現される。インフラが故障する前に問題を検知し、計画的な修繕が可能となるのだ。また懸念事項の一つであった「人手不足の解消」にもつながる。データ分析により、効率的な作業が可能になるだろう。
「初期導入コスト」が高いため、政府は躊躇しているというのが実態である。実際、日本全国の水道網にIoTセンサーを設置するには、莫大なコストがかかる。しかし、一度導入すれば予防保全が実現できるのならば、その価値は十分にあるだろう。なぜ人の命を初期費用によって躊躇うのかは理解に苦しむ。
民間資本は参入させるべきか?
民間参入を促進せよという議論もあるが、筆者はこれには反対である。確かに、公共民間連携(PPP)や民間資金主導の社会資本整備(PFI)を活用し、水道事業への民間参入を促進することは可能だろう。運営を民間企業に委託し、効率的な管理を目指すのも一つの手段である。財政負担の軽減にもつながり、技術革新を促進できる。
しかし、水道料金が値上がりする懸念がある。郵便局ですら配送料金の値上がりが生じている。利益優先となり、住民の負担が増加することが懸念されるだろう。そして収支に合わなければ、最悪の場合コスト削減が優先される。どのみち、国や政府が行っていることと何ら変わりのないことが発生する。料金値上げや中抜きに関する制限や規制が可能ならば考えてみるのも手ではあるが・・・。
結論
水道管破裂のような事故は、老朽化したインフラが限界を迎えていることを示している。しかし、政府の対応は遅く、問題の先送りが続いている。これは、世代間責任の放棄や公共福祉の軽視といった倫理的問題を孕んでおり、長期的な視点に立った政策転換が求められる。特に、インフラ管理を自治体任せにするのではなく、国家レベルでの総合的な対応が急務である。

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