スマートフォンという鏡:iPhone 16Eの新製品発売前に今一度、スマートフォンがもたらす現代病について考えてみたい。

スマートフォンをボーっと見つめる男
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夜の帳が下りると、彼はスマートフォンの画面を覗き込む。小さな光の板は、暗闇を照らし、無限の知識と娯楽を提供してくれる。ポケットの中にある小社会。それは彼を退屈から救い、孤独を慰め、現実の世界から切り離してくれる。しかし、その魅力的な輝きの裏側に潜む影に、彼はまだ気づいていない。

私たちはスマートフォンが手元にないと落ち着かない種族となってしまった。スマートフォンを開かなければ、何かを見逃してしまっているのではないかという焦燥感が募るのだ。SNSのアプリケーションを開けば、友人たちの華やかな生活が並んでいる。それを目の当たりにするたび、自分だけが取り残されているような気がする。誰かがどこかで笑い、楽しみ、成功しているのだ。

画面の向こうの世界は輝いているが、ふと目を上げると、部屋の中は静寂だけが横たわっている。

指が無意識に画面をなぞった。スクロールするたびに新しい情報が流れ込んでくる。しかし、どれだけ見続けても、満たされることはない。心の奥底にある空白は、次々と流れる情報の波では埋められないのだ。

彼はそれを知っているはずだ。それなのに、スマートフォンをやめることができない。スマートフォンはもはや道具ではなく、彼の思考と行動を支配する呪いとなっていた。

朝、彼は目を覚まし、最初にスマートフォンを手に取った。まだ完全に意識が覚醒していないにもかかわらず、通知を確認し、メールが来てないか、LINEが来ていないかをチェックする。そして最後に、SNSをチェックする。それが彼の日常の始まりなのだ。

通勤電車の中、彼の周囲にいる人々もまた無表情のまま画面を覗き込んでいる。誰もが同じ姿勢で、同じように指を動かし、現実の世界から離脱している。画面の前では面白そうな話題が流れているにもかかわらず、人々の表情は彫刻のように硬いままだ。窓の外には移り変わる風景が広がっているはずだ。老人や子どもたちが何やら困っている、ある女性は痴漢を受けている。誰かが電車の揺れで倒れそうになる。しかし、誰も見ようとしない。

車内アナウンスすら耳に入らず、気がつけば目的の駅なのだ

休日。

彼は友人とカフェにいた。しかし、会話が途切れるたびに、皆がスマートフォンを手に取る。数分間の沈黙の後、ふと顔を上げた友人が言った。

「さっき何の話してたっけ?」

デバイスに繋がっているはずなのに、どこかで現実のつながりを失っている。スマートフォンが彼らの会話を断ち切り、人間関係に見えない亀裂を作っていた。

ある日、彼は検索履歴を振り返ってみた。健康のこと、旅行のこと、仕事のこと。何気なく調べたことが、すべて記録され、アルゴリズムによって解析されている。検索サイトやSNSには彼の好みが反映された広告が並び、彼の行動パターンが見透かされているかのようだった。

スマートフォンはただの道具ではない。誰かが、その向こうで彼を監視しているのではないか?

彼の考え、感情、行動までもが、無意識のうちにコントロールされているのではないか?

彼は、長い利用規約を読むことなく、画面の指示に従った。しかし、それが何を意味するのかを理解していたわけではない。プライバシーはもはや幻想にすぎず、彼の個人情報はすでにどこかへ流れ去っていた。

時計の針はいつの間にか進んでいる。気づけば夜が明けていた。寝る前に少しだけと思って開いた動画が、気づけば何本も続いていた。

「まだ時間はある」

彼は何度もそう思っていた。仕事の期限が迫っていても、勉強が必要でも、スマートフォンは彼の手の中にあり続けた。気軽な娯楽が手を伸ばせばすぐに得られる世界では、忍耐や努力が必要な現実がどこか遠く感じられる。

しかし、あとで後悔することも知っている。スマートフォンが奪った時間は戻ってこない。可能性に満ちた時間が、指先のスワイプとともに消えていく。

ある夜、彼はスマートフォンの電源を切った。静寂が訪れる。しばらくの間、何もすることがない手持ち無沙汰が彼を襲った。けれど、その感覚は次第に消えていき、久しぶりに窓の外を見る気になった。

夜風がカーテンを揺らし、遠くで車の音が聞こえる。日常の風景がそこにあった。

スマートフォンの光は消えた。しかし、彼の世界は再び広がり始めていた。

スマートフォンをボーっと見つめる男

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この記事を書いた人

ほのぼの過ごしてるフリーライター。物語エッセイ、小説、時事記事などを書いてます。元リスク学研究員であり、現在情報コンサルにてインターネット・危機管理部門を担当。古書ECのプロジェクトを推進中。たまに俳句。積書が多く、横溝正史・京極夏彦が大好物。

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