※画像提供 Dave_S.(Flickr)
アメリカの空はどうなってしまったのか?
1月28日の韓国・プサンで、エアプサン391便が、プサンの金海国際空港で離陸前に火災を起こした。幸いにも死者はでず、乗員乗客176名全員が無事に避難した。
皆が安堵する中で、事件は起こった。
ワシントンD.C.空中衝突事故
1月29日。
アメリカン・イーグル5342便(ボンバルディアCRJ700型機)が、ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港への着陸進入中に、アメリカ陸軍のUH-60ブラックホークヘリコプターと空中で衝突し、ポトマック川に墜落した。CRJ700の乗員乗客64名とヘリコプターの乗員3名、合わせて67名全員が死亡したことを受けて、全米が衝撃を受けている。
この事故では、フィギュアスケートの元世界チャンピオンであるエフゲーニヤ・シシコワさんとヴァディム・ナウモフさん夫妻を含む、スケート関係者が多数犠牲となった。
彼らはカンザス州ウィチタでの強化合宿からの帰路だったという。
現在もダイバーたちは極寒の中で犠牲者の捜索のため、海中を捜索し続けている。
航空機同士の衝突の瞬間が監視カメラの映像で鮮明に映し出されていたことが、全米に衝撃を与える結果となった。
映像には、両機の残骸が凍ったポトマック川に墜落する様子や、ワシントンDCの空を明るく照らした空中衝突の様子が捉えられている。
アメリカ・サン紙の取材によれば「ある男性」は、「墜落事故のため、妹のアメリカン航空のフライトがアーカンソー州からニューヨークへルート変更されて以来、彼と妹が一晩中休みなくテキストメッセージをやり取りしていた様子」を語った。
国家運輸安全委員会(NTSB)、連邦航空局(FAA)、国防総省、アメリカ陸軍が共同で事故原因の調査を開始した。
NTSBは事故現場に調査チームを派遣し、フライトデータレコーダー(ブラックボックス)の回収・解析を行っている。国家運輸安全委員会(NTSB)の初期報告によれば、ヘリコプターが許可された高度を超えて飛行していた可能性が指摘されている。
また、空中衝突の直前に、CRJ700が自動警告を受けて高度を上げたことも報告されている。なお、事故当時、空港周辺の空域には悪天候や視界不良といった問題は報告されていない。
ニューヨークタイムズ紙の報道によれば、連邦航空局(FAA)の予備報告では「事故当時、レーガン・ナショナル空港の管制塔では、通常とは異なる人員配置がなされていた」という。

ワシントンD.C.の空域は毎日混雑しており、航空機の誘導や離着陸の頻度が激しい場所である。そのため、通常であれば、複数の管制官が分担して航空機の誘導に対応するはずである。
しかし、FAAによれば、航空機とヘリコプターの管制業務を、「1人の管制官が担当していた」と指摘している。飛行機の誘導の際、当該管制官は一度に複数のタスクをこなしており、推奨人員の3分の1で業務を遂行していたという。
この状況が事故に影響を与えた可能性があり、現在、FAAは管制体制の問題を精査している。
この悲劇に関して、トランプ大統領は1月30日に記者会見を開いた。大統領は事故の責任を「バイデン政権とFAAの多様性・公平性・包括性(DEI)政策」に結びつける発言を行った。具体的な証拠は示されなかったが、「FAAの優先順位が間違っているのではないか」と批判し、航空管制官の能力や訓練水準に疑問を呈した。






※SUN誌の作成した衝突の仮定
トランプ氏の「原因はDEI説」に同意するのは、航空管制官を目指し、不採用となったアンドリュー・ブリジダ氏である。テレグラフ紙の取材の中で、ブリジダ氏は「求められる民族的属性にあてはまっていない」として航空管制官になれなかった過去を持つ。



※アンドリュー・ブリジダ氏
ブリジダ氏によれば、「多様な候補者を引き付けるための試み」として、FAA は当初行っていた「技能ベースのテスト」を物議を醸している「経歴質問票」に変えたという。
ブリジダさんは、航空管制官になるという自分の夢が、この「DEI仕様の新しい応募システム」によって閉ざされたと主張した。
「FAAは、同局のウェブサイトで明記されている多様性と包括性を重視した採用活動の下、重度の知的障害、精神疾患、その他の精神的・身体的疾患を抱える労働者を積極的に採用している」とトランプ大統領は主張している。



しかし、注意しなければならないのは航空機事故とは複合的要因が重なることで生じるケースが多く、トランプ大統領の発言のようにDEI政策による「優秀でない人材」が配置されていたことは問題の一つかもしれないが、管制官やパイロットのエラーが解明されていない現段階では根拠のない憶測である。
トランプ大統領は会見の中で「私は安全を第一に考える。オバマ氏、バイデン氏、民主党は政策を第一に考える」と発言し、民主党との違いを強調した。
大統領は、航空業界における人材採用基準の厳格化を掲げ、「最も賢く、最も優秀な」人材だけを雇用すると明言。これは、FAAの多様性・公平性・包括性(DEI)政策を批判する意図が含まれているとみられる。
トランプ大統領は、事故の状況についても具体的に言及し、「同機のパイロットはすべて正しく行動し、何十年もパイロットがとってきたルートに従った」と述べた。
また、軍用ヘリコプターの飛行ルートや姿勢に疑問を呈し、「信じられないほど悪い角度で飛行していた」と指摘。軍用ヘリコプター側にも一定の責任があるとの見解を示した。



共和党と言えば、軍人を擁護するようなイメージがあるが、トランプ大統領は異なるのだろうか?
実はこれにはトランプ大統領とアメリカ軍部との根深い恨みが存在する。
トランプ大統領は、過去に韓国やドイツが国防費を負担しなければ、在外米軍を撤退、再配置させると発言した。その際、軍部は激しく抵抗し、双方に深い溝が出た。トランプ大統領は水を得た魚のように、この事故を機に軍部バッシングを強めるかもしれない。
しかし、文民統制が世の常であるならば、ホワイトハウスと軍部の対立は常識なのかもしれない。最終的な決定権はトランプ大統領にあるのだから。
FAAは、事故の発生を受けてレーガン・ナショナル空港周辺のヘリコプター飛行ルートを一部制限する措置を発表した。また、NTSBは引き続き墜落現場での調査を続け、ブラックボックスの解析を進める予定である。
事故原因の最終的な結論が出るまでには、数カ月から1年以上かかる可能性がある。
今後の調査結果が、航空安全政策にどのような影響を与えるのかが注目されている。
二度目の悲劇 アメリカ・フィラデルフィアでの医療輸送機墜落事故
1月31日。
アメリカ・ペンシルベニア州フィラデルフィア北東部で、地面が大きく揺れるほどの衝撃が走った。住民たちの目の前で、医療輸送用の小型ジェット機が墜落したのだ。
事故の瞬間は様々な地点から撮影されていた。
「まるでミサイルのようだ」と地元住民は言う。
搭乗していた6人全員と地上を歩いていた1人が死亡した。墜落地点は、多くの住民が行きかうショッピングモール近辺の道路であり、近くには何台もの車が停車していた。
目の前で飛行機が墜落した様子を目撃した通行人である女性たちの悲鳴が映像には記録されている。彼女は目の前で歩いていた通行人の死を間近に見てしまったかもしれない。
また、地上では少なくとも19人が負傷し、複数の住宅や車両が炎上する被害が発生した。
墜落したのはリアジェット55型機で、メキシコのティフアナに向かう途中、ミズーリ州スプリングフィールドでの給油のため、ノースイースト・フィラデルフィア空港を離陸した直後であった。
機内には、アメリカの病院で治療を受けた6歳の少女とその母親、医師、看護師、そして2人のパイロットが搭乗しており、全員がメキシコ国籍だったという。
ワシントンD.C.での事故調査が終わらぬ中、FAAとNSTBは共同で調査している。事故原因は現在調査中でるが、エンジンの重大な故障や鳥との衝突などが考えられている。
フィラデルフィア市長は「駐車場、路上、車内、住宅など地上にいた多くの人が負傷している」と発表した。また消防当局によれば、少なくとも住宅五件で火災が発生したという。



翌朝、報道では道の真ん中にできた巨大なクレーターが映し出された。周囲には炎上して焼け落ちた建物や車両が見える。
墜落現場の周辺では、住民たちが飛行機の残骸や遺体の一部を発見しているとの情報もある。






悲劇の火種はまだくすぶり続けている?ヒューストン航空機炎上事故
2月2日に三度目の航空機事故が発生した。
アメリカ・テキサス州ヒューストンのジョージ・ブッシュ・インターコンチネンタル空港で、ニューヨークのラガーディア空港行きのユナイテッド航空1382便(エアバスA319型機)が離陸滑走中に右エンジンから煙と火が発生するトラブルが発生。
機内には乗客104名と乗員5名が搭乗していたが、緊急脱出用のスライドと階段を使用して機外に避難し、全員無事であった。けが人は報告されていない。
1月29日のワシントンD.C.での空中衝突事故や、1月31日のペンシルベニア州フィラデルフィアでの医療輸送機の墜落事故に続くものであり、アメリカ国内で航空機の事故やトラブルが相次いで発生している。
そのため、アメリカでは空の安全に対する懸念が高まっている。



連邦航空局(FAA)は、今回のエンジントラブルの原因を調査中である。



空の安全を我々はどう考えればよいのか?
日本も他人事では済まされない。
2024年1月には羽田空港で、日本航空516便(エアバスA350-941)と海上保安庁の航空機「みずなぎ1号」(デ・ハビランド・カナダDHC-8-Q300)が滑走路で正面衝突し、海保隊員五名が死亡した。
昨年12月29日には、韓国南西部の務安国際空港にて181名が登場した旅客機が胴体着陸の末、外壁に激突し、全員が死亡する事故も発生している。
航空機を利用するのはどう行った時だろうか?
そして航空機について思いを馳せる瞬間はどう行った時だろうか?
搭乗者としての対応
まず、私たちは「搭乗者」としての安全対策を考えなければならない。
近年、航空会社は格安航空会社LCCや小規模な小型チャーター便の普及によって、その利用の幅が広がっている。しかし、裏を返せば、そうした航空会社が増加するごとに、空は混雑しており、どの企業も人材不足にあえぐことになるのだ。
価格競争によって十分な整備が行われず、人材も育たずに事故になるケースは後を絶たない。パイロットエラーや整備士のエラーが発生したとしても、大部分は航空会社や空港の管理責任の問題である。
私たちが「搭乗者」としてすべきことは多くあるだろう。
第一に、「安全性の高い航空会社を選択すること」が重要である。
安全性の高い航空会社は、航空安全評価サイト「AirlineRating.com」が発表している。






2025年の安全な航空会社としては、ニュージーランド航空やカンタス航空、キャセイ・パシフィック航空、カタール航空などが挙げられている。
日本においては、ANAが6位、日本航空が19位と上位に食い込んでいる。
こうしたレビューを参考にしながら、安全実績の高い航空会社を選択することが何よりも重要であるといえるだろう。
LCCを選択する上で参考になるのは、この「AirlineRating.com」だけでなく、国際航空運送協会(IATA)や運航安全監査機関(IOSA)の認証を取得できているかなどが挙げられる。
また「フライト前のリスク確認」も忘れてはならない。
当日の天候情報をチェックし、悪天候が予想されるならばフライトを変更するのも一つの手だろう。
あるいは機体情報を見てみるのも悪くはないだろう。特定の型式では不具合が報告されている場合もある。その機体を採用しているフライトの予約はしないようにするなどできることはあるかもしれない。
また「緊急時の対応」も理解しなければならない。
非常口はどこにあるのか?
ベルトはサインがなくても必ず着用する
緊急着陸の姿勢を覚える。
一見無意味かもしれない行動も、私たちの生存率を上げるために欠かせない要素なのだ。
社会としての対応
しかし、搭乗者個人で行うことには限界がある。ならば「社会」も空の安全に対応していく必要がある。
航空機事故は頻発しないと言われているが、実際は多くの事故が発生している。
ハインリッヒの法則に従えば、1件の重大事故の背後には、29件の軽微な事故と300件のヒヤリハット(事故寸前の状況)があるという。
そのため、私たちは航空安全に携わる機関、例えば日本では国土交通省航空局や運輸安全委員会(JTSB)、日本の各航空会社、国会議員の中でも衆参両院に存在する国土交通委員会に意見や嘆願を送り、航空安全強化や情報公開を要求することも一つの手段である。
例えば、航空管制官やパイロットの人員増強や訓練強化を空港や航空会社に求めることは「顧客」として当然の要望である。
航空会社の失敗として顕在化するのは、航空安全の基準を遵守しているか、とりわけパイロットの能力評価を定期的に実施しており、かつ過労問題を抱えてないかなどが挙げられる。これら航空会社独自の問題をチェックすることが求められる。
航空機メーカーも忘れてはならないだろう。
ボーイングやエアバスなどのメーカーが適切なメンテナンスを実施しているかを監視できる第三者機関の設置も急務かもしれない。
航空事故はゼロにはできない。しかし、私たちが正しい知識を持ち、航空当局や航空会社に対して安全対策を求め続けることで、事故リスクを減らすことは可能であるのだ。
旅行者としての安全対策を徹底し、社会全体で航空安全を向上させるための取り組みを継続していくことが重要である。