政府の社会保障費抑制策に批判の声 「国家的な殺人」と知事が指摘。高額医療費の負担増は違憲か?

介護疲れしている女性
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政府は2024年末、少子化対策の財源確保のため、社会保障費の抑制策として「高額療養費制度」の「自己負担上限額」を段階的に引き上げる方針を決定した。この政策に対し、島根県・丸山知事は「憲法25条(生存権)の違反であり、提案すること自体が国家的な殺人に当たる」と厳しく批判した。

丸山知事は、負担増により治療を諦めざるを得ない患者が増える可能性を懸念している。

政府は「高額療養費制度」の患者の自己負担額の上限を今年8月から段階的に引き上げる方針を決めていましたが、患者団体などから反対の声が上がり、17日、石破総理は、衆議院予算委員会で、「年4回以上該当される方の自己負担額の見直しを凍結する」と一部修正する考えを示しました。

政府の決定内容

政府は、2025年8月から2027年8月にかけて、高額療養費制度の患者の自己負担額の上限を段階的に引き上げる方針を決定した。しかし、市民団体や地方自治体などからの反発があり、2月17日に石破首相は、衆議院予算委員会で「年四回以上の長期治療に該当する方々の自己負担額見直しを凍結する」と発表した。

丸山知事によれば、この政府決定は、例えば、70歳未満で年収650万円の人間の場合、年間負担上限額が現行の64万円から111万円へと約1.7倍に増加すると主張した。当初の提案では、長期治療を必要とする患者に対しても負担増が適用されていた。しかし、批判を受け、一部の患者については現行額を据え置く形で修正された。しかし、それでも大幅な負担増には変わりなく、反発は収まっていない。

憲法25条違反の可能性

丸山知事は「負担増が実施されれば、治療を諦める人が相当数出てくるのは明白だ」とし、「国家が国民に対して、そういう治療を余儀なくされている人に対して、治療を諦めざるを得ない状況を制度的に作るということは、国家的殺人だ」と政府の提案を厳しく非難した。

憲法25条では、「すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定しており、国は社会保障や公衆衛生の向上に努める義務を負っている。今回の政府の方針は、医療費負担を増大させることで、国民の健康を脅かす可能性がある。過去の判例では、国の施策が個人の生命や健康を著しく損なう場合、違憲と判断されることもあったが、日本の裁判所は一般的に「政策判断は国会や政府に委ねられる」とする傾向が強く、違憲判決が下されるかは不透明だ。

しかし、長期治療患者や重篤患者にとっては医療費は生命線である。この負担が増えてしまえば、命の危険に晒されることは確実であるといえるだろう。

刑法上の責任は問えるのか?

丸山知事は、「これは国家的な殺人に当たる」とまで言及したが、刑法上の殺人罪(刑法199条)が適用される可能性は低い。政府が直接「人を殺す」意図を持っているわけではなく、政策の結果として治療を諦めざるを得ない人が増えるとしても、「過失致死罪」(刑法210条)に該当するかどうかは議論の余地がある。

しかし、政府の判断によって命を落とす可能性のある国民が増えることは事実であり、その社会的責任は免れないだろう。過去にも医療制度改革が行われた際、自己負担増によって健康状態が悪化し、生活困窮に陥る事例が報告されている。

少子化対策と医療費抑制のトレードオフ

政府の方針は、「少子化対策のための財源確保」という目的のもと進められている。しかし、医療費の自己負担増が少子化対策と矛盾する可能性も指摘されている。

例えば、持病を抱える親が治療費を払えなくなれば、子ども世代が経済的負担を強いられることになる。結果として、結婚や出産を躊躇する要因となり、少子化を悪化させる可能性がある。また、健康状態が悪化した親の介護負担が増加し、子育てとの両立が難しくなることで、より深刻な少子化の進行を招く恐れもある。

代替財源の可能性

今回の医療費負担増以外にも、少子化対策の財源を確保する方法は考えられる。しかし、いずれも検討されるか、昨今の国際情勢や国内情勢を鑑みると重視される代替財源である。例えば、「大企業・富裕層への課税強化」であるが、これはすでに大々的に実施されつつある財源確保策である。

「防衛費の見直し」についても議論の余地があるだろう。野党の一部からは日本の防衛費はGDP比2%を目標に増額されているが、少子化対策の緊急性を考えれば、一部の予算を見直し、社会保障費へ振り向けるべきではないかとの意見もある。しかし、中国の軍拡やロシア・ウクライナ情勢、北朝鮮のミサイル問題などを鑑みると、日本の防衛費を増加させる必要があるのは明白であろう。

最後に「社会保障の効率化」であるが、これは無駄な医療費の削減やジェネリック医薬品の促進、高額な医療機器・薬剤の価格見直しなど、医療制度全体の最適化によってコスト削減を図ることも一つの方法である。事実、低コストで効果的な機材や医薬品の開発が実現できれば、より効率化を促進することができるだろう。

政策決定の透明性と国会での議論の必要性

丸山知事は「負担上限額を閣議決定で決められる政令ではなく、国会での法改正を通じて決めるべきだ」と指摘。国民の生活に直結する重要な政策変更が、政府の裁量によって一方的に決定されることには、大きな問題がある

政府の少子化対策としての財源確保策は理解できるが、医療費の自己負担増がもたらす影響はあまりにも大きい。憲法25条違反の可能性や、社会的責任の問題、さらには少子化対策との矛盾を考えれば、現行案の見直しが求められる。

政府は財源確保の方法を多角的に検討し、医療制度の持続可能性と国民の健康を両立させる形での社会保障政策を進めるべきではないだろうか。今後、国会での議論がどのように進むかが注目される。

参考

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この記事を書いた人

ほのぼの過ごしてるフリーライター。物語エッセイ、小説、時事記事などを書いてます。元リスク学研究員であり、現在情報コンサルにてインターネット・危機管理部門を担当。古書ECのプロジェクトを推進中。たまに俳句。積書が多く、横溝正史・京極夏彦が大好物。

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