日米首脳会談の本質:対外投資額引き上げによる経済活力と期限付きの関税戦争の通告、そして不気味な武器購入費用の低さ

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ドナルド・トランプ大統領と石破茂総理大臣による「日米首脳会談」が終わった。

日米共同声明が発表され、外務省によれば次のように約束された。

両首脳は、厳しく複雑な安全保障環境に関する情勢認識を共有し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて緊密に協力し、日米同盟を新たな高みに引き上げていくことを確認しました。

両首脳は、日米同盟の抑止力・対処力を高め、日米が直面する地域の戦略的課題に緊密に連携の上、対処していくことで一致しました。石破総理大臣からは、日本の防衛力の抜本的強化への揺るぎないコミットメントが表明され、トランプ大統領はこれを歓迎しました。

トランプ大統領は、米国による核を含むあらゆる能力を用いた、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミットメントを強調しました。

両首脳は、日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを改めて確認しました。また、両首脳は、辺野古における普天間飛行場代替施設の建設及び普天間飛行場の全面返還を含む沖縄統合計画に従った在日米軍再編の着実な実施へのコミットメントを確認しました。

両首脳は、日本が5年連続で最大の対米投資国であることを始め、経済面でも両国が緊密なパートナーであることを確認しました。

石破総理大臣「対米投資額を1兆ドルという未だかつてない規模まで引き上げたい、そのために共に取り組んでいきたい」との意思を伝え、トランプ大統領から、日本企業による対米投資に対する強い歓迎の言葉がありました。

その上で、両首脳は、両国におけるビジネス環境を整備して投資・雇用を拡大していくこと、互いに産業を強化するとともにAIや先端半導体等の技術分野における開発で世界をリードすること、また、成長するインド太平洋の活力を取り込む取組を力強く推進していくことを通じて、日米のパートナーシップを更に高い次元に引き上げていくとの認識で一致しました。また、双方に利のある形で、日本へのLNG輸出増加も含め、両国間でエネルギー安全保障の強化に向けて協力していくことを確認しました。

両首脳は、地域情勢について意見交換を行いました。

両首脳は、中国をめぐる諸課題について意見交換を行い、東シナ海や南シナ海等におけるあらゆる力又は威圧による一方的な現状変更の試みに反対することを確認しました。また、両首脳は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調しました。

両首脳は、北朝鮮情勢について認識を共有し、核・ミサイル問題に共に対処する必要性や、北朝鮮の完全な非核化に向けた確固たるコミットメントを確認しました。また、拉致問題の即時解決について、石破総理大臣から引き続きの理解と協力を求め、トランプ大統領から全面的な支持を得ました。

両首脳は、日米豪印、日米韓、日米比といった同志国連携を更に強化していくことの重要性を確認しました。

両首脳は、かつてなく強固になった日米関係を維持・強化すべく、引き続き日米で緊密に連携していくことで一致し、日米首脳共同声明を発出しました。

最後に、石破総理大臣はトランプ大統領に、早期の日本への公式訪問を招待しました。

外務省HP https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/na1/us/pageit_000001_01583.html

目次

日米首脳会談の要点

さて、この内容に関する政策的評価を下すには、まだ材料が不足している。

注意しなければならないのは以下の点である。

①対米投資額1兆ドルへの引き上げを目指す →AIや先端半導体の開発、LNG輸出

②日米安保の強化 → 中国の武力による現状変更への反対及び台湾海峡の平和と安定、北朝鮮の非核化

③日本での日米会談

である。

対米投資

第一に、対米投資額の1兆ドルは「民間投資」が基本であるだろう。

実際、対米投資において日本は世界よりも群を抜いて高い。2023年の時点で7800億ドルであり、2位のカナダ、3位のドイツと比してもダントツであった。

これは昔からというわけではない。2019年以降、日本の対米投資額は右肩上がりの傾向であった。過去10年においてもアメリカが3分の1の規模で投資額を占めている。

その次に多かったのがイギリスであり、中国、オーストラリア、オランダ、シンガポールが並ぶ。

今年も、日本企業や個人の投資家がアメリカを舞台にするのだろう。

これについて「財源は?」という見当違いな批判はあるものの、上手くいけば日本にも利益に繋がるだろう。

日米安保と武器購入

次に日米安保を再確認したのは、両国にとって都合が良いだろう。とりわけ対中強硬路線を貫いているトランプ政権に、自衛隊の装備改善と拡張を狙う自民党は都合が良い。

しかし、気になるのは10億ドルの武器購入である。安倍政権に武器を売り込んでいたトランプ政権にしては安すぎる価格なのである。例えばイージスシステムの購入額がこれにあたる。

2020年の安倍政権においては、およそ231億ドル(2兆4800億円)を使用したにしては規模が小さい。2期目のトランプ政権は日本ではなく、別の国に武器を売却するのかもしれない。現にイスラエルは米国産の武器を大量購入している。

日本政府や防衛省としては国内軍需産業の成長を狙っているため、アメリカ産の軍事技術や武器購入に予算が回ってしまうのは回避したかったのだろうか。

日本政府は、およそ43兆円の防衛費を確保するために、増税時期をうかがっている。おそらく年内か、最低でも2026年までには増税時期が決定されるだろう。

期限付きの関税戦争

また、トランプ大統領は「日米の貿易赤字」についても牽制した。

しかし、蓋を開ければ共同声明でトランプ大統領は「関税外交」を封じ込めた。先にUSスティールとの会談を行ない対日会談に準備万全だった大統領にどのような心境の変化があったのだろうか。

それは、日本が1兆ドル(約152兆円)規模の対米投資を行うことを石破首相が明言したからだろう。先述した通り、日本の対米投資額は世界1位であり、揺らぎがないのだ。

しかし、それでも「貿易赤字」は懸念材料として残ったままである。日本においては一応の嵐は去ったとはいえ、中国への関税措置と合わせれば、日本にとっても少なからず打撃が出ることは必至だ。

しかし、対日輸出品に20%の関税が加わったとしても、国内総生産に占める比率はわずかである。

そのため、経済が深刻なレベルで悪化することはないだろう。

また、トランプ政権が同盟国にあらゆる関税措置を講じたとしても、息切れするのはアメリカ自身である。そうした経済的影響のなさが対日関税に至らなかった背景にあるのかもしれない。

日米首脳会談の評価

課題が山積してはいるが、一応の評価をしても良いだろう。

しかし、問題はその実行力である。1兆ドルの対米投資について石破内閣はどのような経済・金融政策を選択するのかが注目される。

重要なのは政策とその実効性であり、身なりや座り方などではないのだ。

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この記事を書いた人

ほのぼの過ごしてるフリーライター。物語エッセイ、小説、時事記事などを書いてます。元リスク学研究員であり、現在情報コンサルにてインターネット・危機管理部門を担当。古書ECのプロジェクトを推進中。たまに俳句。積書が多く、横溝正史・京極夏彦が大好物。

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