エルサルバドルのブケレ大統領は、米国から国外追放された犯罪者を自国の巨大刑務所「テロリスト監禁センター(CECOT)」に収容することを申し出た。この合意は、マルコ・ルビオ米国務長官がエルサルバドルを訪問し、ブケレ大統領と会談した後に発表された。
ブケレ大統領は、米国にて有罪判決を受けた犯罪者のみを資金と引き換えに収容する用意があるとしている。
「これは米国にとって比較的低コストだが、エルサルバドルにとっては大きな利益になり、刑務所システムを持続可能にする」
「世界最高の刑務所だ」
と述べるブケレ大統領。
異例の提案に対する評価
米国のルビオ国務長官は、「このような友好の申し出をした国はこれまでなかった」と述べ、ブケレ大統領の対応に「深く感謝している」とした。この合意は、トランプ大統領の政策に則ったものであり、同氏は再選以来、不法移民の強制送還を加速させる方針を掲げている。
エルサルバドル政府は、同国に帰国する移民に加え、米国内で拘留されている「MS-13」や「トレン・デ・アラグア」といった国際犯罪組織のメンバーも受け入れる見通しだ。
CECOT刑務所の実態と批判
CECOTは、サンサルバドルの南東約75kmに位置し、最大4万人の受刑者を収容できるラテンアメリカ最大の刑務所として知られている。政府は、この刑務所の厳格な管理体制を「犯罪撲滅の象徴」としてアピールしており、開設時には、囚人たちが上半身裸で並べられる映像が公開され、大きな波紋を呼んだ。
この刑務所の運営手法については人権団体が強く批判しており、アムネスティ・インターナショナルは「ギャングによる暴力が国家による暴力に取って代わりつつある」として強い懸念を示している。一方、ブケレ政権の治安政策は、ギャング犯罪を劇的に減少させたとして、国内で高い支持を得ており、昨年の選挙で84%の得票率を獲得した。
米国とエルサルバドルの戦略的関係
この合意は、単なる刑務所移送の枠を超え、米国とエルサルバドルの戦略的関係強化の一環と見られている。特に、米国は中米地域における中国の影響力拡大を懸念しており、ルビオ国務長官はエルサルバドル訪問の前にパナマを訪問している。その中で、パナマ運河に対する中国の影響力を直ちに見直すべきだとする。
ブケレ大統領は、トランプ政権との関係強化を望んでいるようだ。エルサルバドルは、現在アメリカを最大のパートナーであるとしている。今回の刑務所移送合意は、2019年の移民協定を超える規模となる可能性がある。
今後の展望と懸念
民主主義国家が自国民を外国の刑務所に収監する前例はほぼなく、米国内でこの合意に対する法的・倫理的な議論が起こることは必至だ。特に、米国市民権を持つ者を国外の刑務所に移送することの合法性は、今後の裁判で争われる可能性が高い。
一方で、アメリカ国内では刑務所のキャパシティオーバーによって軽犯罪が見逃されるケースが頻発している。ハインリッヒの法則によれば、複数の軽犯罪の裏で一つの凶悪事件が発生する懸念があるとされる。
エルサルバドル国内では「治安の維持」「刑務所の財政的持続可能性」といったメリットが強調される一方、人権侵害の拡大を懸念する声も根強い。ギャング撲滅を目的とした厳格な取り締まりが、無実の人々の投獄につながるリスクも指摘されており、ブケレ政権の今後の対応が注目される。
